『食人国旅行記』と云うタイトル、そしてサディズムの語源ともなっているマルキ・ド・サドの小説ということで、当初は恐ろしくグロテスクな内容の小説なのだろうと思って読み始めたのだが、実はそんなことはなくて、離れ離れになった恋人を捜し求めて3つの国を旅をして、その国々で様々な出会いや経験をし、最後にやっと…
という物語である。
こう書いてしまうとどこにでもありがちな物語にも思えてしまうが、実のところはサドの思い描くユートピア・ディストピア的思想が散りばめられていて、読み進めながら色々と考えさせられる場面が多い。
相変わらず澁澤龍彦による美しく丁寧な翻訳がなされている。思えば繰り返し繰り返し何度も読んでおりますが、全く飽きませんね。文章自体も読みやすく、ストーリーなどもとても楽しめるので、マルキ・ド・サド入門或いは澁澤龍彦入門として読んでみても良いかもしれません。
内容(「BOOK」データベースより)
許されぬ恋におち、駆け落ちをしてヴェニスにたどりついたサンヴィルとレオノール。二人はこの水の都で離れ離れとなり、互いに求めあって各地をめぐり歩く。―本書ではその波乱に満ちた冒険旅行をサンヴィルが回想するが、なかでも注目すべきはサドのユートピア思想を体現する食人国と美徳の国の登場で、その鮮烈な描写はサド作品中とりわけ異彩を放ち、傑作と称えられている。