澁澤龍彦が咽頭ガンと闘いながら書いた遺作。
自らの投影である高丘親王が、お供を連れて天竺を目指す。夢とも現実ともつかぬ世界を、境界線無しで自在に行き来しながら、天竺を夢見て旅をする。
旅の途中に出会うジュゴンや象、ラフレシア等々、初めて視るモノ全てに興味を示す高丘親王。
年齢を重ねても、面白いことや不思議なことにかける情熱、そして探求心。まさに澁澤本人そのものだ。
ラスト・シーンは、澁澤龍彦と高丘親王が本当にオーバーラップしてしまい、とても切ない気持ちになった。
ひらがなの使い方が絶妙で、物語全体を通しての印象はとても優しく柔らかい。
何度読み返しても飽きることはなく、何度も読み返したいと思わせる大切な一冊。
内容(「BOOK」データベースより)
貞観七(865)年正月、高丘親王は唐の広州から海路天竺へ向った。幼時から父平城帝の寵姫藤原薬子に天竺への夢を吹きこまれた親王は、エクゾティシズムの徒と化していたのだ。鳥の下半身をした女、犬頭人の国など、怪奇と幻想の世界を遍歴した親王が、旅に病んで考えたことは…。遺作となった読売文学賞受賞作。