かの有名なレイモンド・チャンドラーの『長いお別れ』を、ロバート・アルトマン監督が70年代風にアレンジして映画化!エリオット・グールドの飄々としたマーロウは魅力いっぱいだが、原作ファンの間では賛否両論別れる作品。
レイモンド・チャンドラーの小説『長いお別れ』をロバート・アルトマンが70年代風にアレンジした作品。これまでにハンフリー・ボガートなどが確立したフィリップ・マーロウ像を打ち破るべく、エリオット・グールドが”飄々と”熱演している。
冒頭の”飼い猫にねだられて渋々餌を買いに行くシーン”だけで、この新しいマーロウはキャラクターを確立してしまっている。このエリオット・グールド演じる、ソフト帽も被らずトレンチコートも着ていないモジャモジャ頭のマーロウを巡っては賛否両論あるようだが、なんとも愛嬌のあるマーロウに仕上がっていると思う。松田優作が本作に影響を受け、後にテレビドラマの名作『探偵物語』に挑むわけだが…確かにあちらも愛嬌ある私立探偵であった。
さて、出演陣も大変豪華で、文豪ヘミングウェイのような雰囲気の作家役を『ゴッドファーザー』で悪徳警官を演じた”スターリング・ヘイドン”、チンピラのボス役に”マーク・ライデル”。注視していないと気が付かないかもしれないが、チンピラの下っ端として無名時代の”アーノルド・シュワルツェネッガー”が出演している。また、大変個性的な医師役には”ヘンリー・ギブソン”が演じており、ロバート・アルトマンお得意の大勢の登場人物にそれぞれの個性を植え付けることに成功していて、一人ひとりが印象深い役どころとなっている。
因みに本作は一応サスペンス映画にカテゴライズされるが、推理やトリックのようなものを期待してはいけない。あくまでも、70年代のアメリカ西海岸にいる変な人達を観察する映画と腹をくくるべきである。
また、ラストシーンを巡っても賛否両論あるようだが、これは確かにこのマーロウのキャラクターを考えると違和感たっぷりの展開かもしれない。ただ、それを差し引いても、映画全体の雰囲気や配役、そして音楽も含めたトータルとして考えてみると、たいへん素晴らしい作品だ。
最近のアップテンポで忙しないカメラワークと、ゴチャゴチャ煩い台詞だらけの映画に嫌気が差した方には是非、本作を勧めたいと思う。
<ストーリー>
それは何か悪いことが起きる前触れだったのか。私立探偵マーローは真夜中におなかがすいた愛猫におこされ、キャットフードを買いにいく羽目になってしまった。彼が刑事に拉致されたのはその翌朝のことだった。友人テリーが妻を殺害。彼がその逃亡の手助けをしているというのだ。のらりくらりと尋問をかわしていたマーローだったが、突然、釈放。なんとテリーが自殺したという! 釈然としない中、失踪したベストセラー作家ロジャー捜査の依頼をうけるマーロー。だが、彼はこのときはまだ事件の裏に隠された複雑な人間関係を知る由もなかった。