~まやかしの夜、うたかたの夢。かの地に迷った眩惑の旅人~アントニオ・タブッキの同名小説を映画化。インドの幻想的な雰囲気と妖しい熱気が織りなすロードムービー風の物語。
アントニオ・タブッキの原作もたまたま読んでいたんですが、何故だかあまり好みではありませんでした。後に映画化されたことを知って、「まぁ、原作読んだことあるし」程度の軽い気持ちで観てみたら、見事にハマってしまった作品。
原作にも流れていた絶妙の空気感をきちんと表現しているようで、会話(というよりも対話の方が適切かな?)での間の取り方が抜群に良かった。
失踪した友人を探してインド各地を旅する主人公、ロシニョールを演じるのはジャン=ユーグ・アングラード。細面で一見ただの優男に見えなくもないが、彼の目にとても内省的な雰囲気を感じました。インドを旅するうちに、身も心も迷子になっていく感覚を演じるには持って来いの役者だと思います。
不衛生で貧困渦巻くインドの様子や、幼い売春婦にジャイナ教の占い師など、じっくりと観てはいけないんじゃないか?と思う映像や、美しい風景の数々。
友人を探しに来たはずのロシニョールは、次第に自分自身の存在すらも危うくなり、インドのうねりの中へと静かに巻き込まれていきます。
ラストの方で出会う女の人が不細工でロマンスっぽい雰囲気を台無しにしたことと、原作に出てきた、『不妊の女たちにあがめられた巨根の老人』がサクッと割愛されていて少々残念(決して、そういう意味ではないよ!)でしたが、旅行記なのに『ほんのりサスペンス仕立ての不思議な自分探し映画』として、とても見事な作品であり、思い出深く大好きな作品です。
ツタヤのレンタルDVDのコーナーだとサスペンス・ミステリーのコーナーに置いてあるのを見かけますが、私はロードムービー(紀行映画)であると認識しております。
内容(「Oricon」データベースより)
イタリアの作家:アントニオ・タブッキの小説を、アラン・コルノーが映像化。友人の行方を捜す若者の紀行を描く抒情詩的ドラマ。ジャン=ユーグ・アングラード、クレマンティーヌ・セラリエほか出演。